紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  本の紹介

   小松光一 編著: エコミュージアム 
              −21世紀の地域おこし−

                  1999年 家の光協会 174頁

 (本の構成)

  はじめに
  第1章 エコミュージアムの原点
  第2章 フランスのエコミュージアム
  第3章 リンゴとワインの里のエコミュージアム(山形県朝日町)
  第4章 空・山・川総合研究所とイーハトーブ・エコミュージアム構想(岩手県東和町)
  第5章 わが村はエコミュージアム(島根県弥栄村)
  第6章 エコミュージアムへの招待
  あとがき     

(書評)
 本書は、今から約8年前の平成11年(1999年)に、サブタイトルにあるように、21世紀の地域興しへの期待も込められて発刊された。

 「エコミュージアム」は、その発祥の地であるフランスでは「エコミュゼ」と言われているが、日本では英語表現の前者が使われており、ここでもそのようにする。

 フランスで「エコミュージアム」が最初に設けられたのは1970年前後である。その代表的なものは、「コア」施設、「アンテナ(サテライト)」施設、見学コース(サーキット)で構成されている。「コア」施設は、「エコミュージアム」の中心的な施設であり、その地方の伝統的な農家住宅や生活用品、芸能、文化などの民俗的な遺産や産業遺産を展示している。「アンテナ」施設では、その域内に散在する文化遺産・産業遺産をそれぞれの場所で展示し、さらに、「サーキット」は、散策しながら野山にある自然遺産、歴史遺産などを訪ねる見学コースである。多くのエコミュージアムには学芸員が配置されている。地域住民がボランティア、あるいは「アソシアシオン」(公的目的のためのボランティア団体;NPOに近い)メンバーとして、学芸員などのスタッフとともにエコミュージアムの協同体活動に日常的に参加している。その後、「コア」と「アンテナ」とが従属関係ではなく、両者が対等なネットワーク型の関係のエコミュージアムも生まれているという。

 「エコミュージアム」以前の博物館(伝統的博物館)のあり方は、主に都会に設立され、美術品などの文化財を展示するものであったが、一方、「エコミュージアム」はあくまでも地域の特質にこだわり、地域住民が地域の伝統的農業などの産業遺産や文化遺産の価値を知り、これを保存・継承・活用して、未来の地域を創っていく博物館運動とされている。第1章と第2章で、「エコミュージアム」発祥の地で実施されている「エコミュージアム」の姿を知ることができ、日本での実践を考える者にとって大変参考になると思われる。

 第3章から第5章では、日本での「エコミュージアム」の取り組みが例示されている。これらの地域は、いずれも高齢化・過疎化の進行が危惧される農村地帯で、地域興しが重要な課題となっている。これまでも役場、地域住民、NPO、青年グループなどにより、地域興しのため様々なアイデアの提供と実践が行われてきた。特に、地域資源・地域遺産に着目して、その保全と活用を進める取り組みが盛んであり、これらを生涯学習、学校教育の場に取り込む活動も行われている。本書では、これらの活発な取り組みが述べられていて興味深い。これらの取り組みが「エコミュージアム」と関連付けられて書かれているが、元々、そのような概念から出発していない面があるので、必ずしもしっくりしないのは当然である。

 しかし、地元の固有の地域資源、歴史的・文化的な遺産の見直しと保全、これを地域興しや学校教育などに活用しようという地域住民と行政の熱意は、フランスにおける「エコミュージアム」運動と通じるものがある。一方、フランス等における「エコミュージアム」は、博物館活動としての性格が強く、調査・研究・教育活動が大きく位置づけられており、そのために学芸員がおかれている。また、「エコミュージアム」を運営するための恒常的で住民の意見が反映しやすい組織が形成されているなどの特徴がある。

 第2章のまとめで、岩橋恵子氏は「日本への指針」として、日本で「エコミュージアム」を取り上げ、これを具体的に進めていく場合に十分に検討すべき課題を幾つか挙げて論じており、参考になる。

 本書を読んでいくうちに、「エコミュージアム」は固定した考えではなく、地域と時代に即して発展、創造されていくものであり、その根底には、地元の歴史遺産、文化遺産、自然遺産等を大切に思い、誇りにする多くの住民がいて、自らその収集、保全、調査、研究活動を積極的継続的に行い、さらに、その一層の深化と豊かさを達成するためには、それを支える学芸員などの専門家の支援も必要であることが分かる。

 本書は、やや古い本であるが、日本における「エコミュージアム」を今後どのように進めていくべきかを改めて原点に戻って考える際に、たいへん参考になる本であると思われる。

(2007.8.22/M.M.)


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